こんにちは。となりのコンサルティングの中村です。
2026年も啓蟄を過ぎ、冬眠していた虫たちが一斉に空を飛び始めました。
我々も進学や就職、異動など、別れもありますが、新たな出会いの多い季節でもあります。
どんな初めましてが起こるのか、ワクワクしますね。
さて、そんな春うららな冒頭とは反対に、今回は緊急度の高い、昨今の物価高騰に対応する単価交渉の進め方と成功事例(建設業)を紹介します。
世界的に騒がれている原油価格高騰の影響は、これから多くの産業に影響が出てきそうです。
建設業における単価交渉成功の1事例
今回紹介する事例は、少し特殊な事業ではありますが、建設事業者になります。
当初ご相談を頂いた時点では営業赤字が続いておりましたが、その後の支援を通じて10~15%の単価交渉に成功。「単年での営業黒字化の達成」と「借入金の返済原資および新規設備投資への原資の確保」が見込まれるようになりました。
今後、10年以内の事業承継も見据えられておりましたが、当初の赤字体質では後継者の承継意思も無いという状況。結果としては経営状況の改善が見られたため、無事に承継も行えるのではないかと思います。
以下に紹介するのは、本事例でも実践した内容となります。
単価交渉を行う際のコツ
さて、肝心の単価交渉を行い、かつ成功させる際のコツですが、重要なのは『交渉先企業内で客観的に判断するための情報を渡すこと』です。
殊、建設業界においては、2025年12月の建設業法の改正により、下請事業者から「資材高騰や賃金上昇分を価格転嫁したい旨の単価交渉」があった場合、川上にあたる発注者や元請企業等は誠実に協議を行うことが義務化されました。
しかしながら、義務化されているのはあくまで「協議を行うこと」であり、必ずしも「価格転嫁に繋がる」というワケではありません。また、価格転嫁を受け入れてもらえたとしても「要望する満額が通る」というワケでもありません。
交渉を行った結果、最終的に希望する値上げを達成していくには、その『必要性』と『妥当性』を交渉先企業に理解いただく必要があります。そのために必要な情報を、目の前の担当者だけでなく、関係する全員が分かるような形で渡してあげることが大切です。
単価交渉に必要な情報と、伝え方(ストーリー)
具体的には以下の情報と伝え方(ストーリー)を実践いただくと、話が通しやすくなるかと思います。
ストーリーの基本は、値上げ前は問題があり→値上げによってそれが解消できる、という流れです。
- 単価交渉を希望する意思
- 値上げの必要性の説明
- 客観的なデータの提示
- 希望する値上げ額or率の提示と、予測データの提示
- 交渉先企業にとっての価値の明確化
- 今後の展望と、交渉先企業にとっての新たなメリットの提示
赤線の2~5の5項目は情報としては必須で、6まであれば完璧です。1は本題部分である2~4の話を聞いてもらうための導入部分にあたります。
以下、少し詳しく解説しますね。
1.単価交渉を希望する意思を伝える
単価交渉によって値上げを認めるということは、発注者や買い手にとっては利益の削減に繋がります。
両者にとってデリケートな話であるため、いきなり『〇〇円値上げして!』と伝えると相手も面喰ってしまいますし、心理学的にも困惑した相手は「No」という回答に至る可能性も高くなります。
そこで、単価交渉はショックを和らげる伝え方が重要で、まずは『単価交渉をしたいのだけど』という要点のみお伝えしましょう。
この目的は、話を聞いてもらえるよう相手の耳を開くことです。
2.値上げの必要性の説明
話し合いの場を設けることが出来たら、値上げの必要性を伝えます。
例えば上の事例であれば「営業赤字が続いている」「このままでは借入金の返済が出来なくなる」「新たな設備投資も難しい」などの自社の抱えている問題点です。
伝える相手も私たちと同じ”生きた人”ですので、客観的な事実を伝えつつ、感情的な部分も含めて話すと想いが伝わるかと思います。
3.客観的なデータの提示
上記2の主張を補完する、客観的な数値データを提示しましょう。
『確かに、言ってる内容の通りですね』『状況は分かりました』と納得いただき、自社の抱えている問題点を共有できればOKです。
全社としての財務諸表や、難しければ案件毎の収益性評価の資料などがお勧めです。
自社での作成が難しければ、金融機関や商工会・商工会議所などの支援期間などに相談してみて下さい。我々、中小企業診断士や、税理士、会計士といった専門家の派遣制度を活用することも可能です。
(実際のところ、自社で作成した資料を提示するよりも、『専門家の方に作ってもらいました』と資料提示した方が受け入れてもらえる確率が高いです)
4.希望する値上げ額(or率)の提示と、予測データの提示
大抵は、上記3の段階で値上げの可否の方向性は明確となり、値上げを受け入れてもらえる場合は、具体的な値上げ額・率の交渉に入ります。
ここでは「上記の問題点を解決するために値上が必要」という伝え方が重要です。
希望する値上げ額(or率)を提示しつつ、その値上げによって予測される客観的な数値データ(収益計画書)を提示しましょう。
データは3つ用意するのがお勧め!
1つ目は「現状のまま企業努力(販売数の増加や経費の削減)のみを続けた場合」、2つ目は「企業努力を行い、かつ値上げを最大限受け入れてもらえた場合」、3つ目は「企業努力を行い、かつ値上げを妥協点で受け入れてもらえた場合」です。
Min、Max、Midというイメージですね。
小売りなどではプライスライン戦略などと言われますが、BtoBでも効果があり、上記のように提示を行った場合、大抵の企業は3つ目のMidの案(またはMaxとMidの中間)で決着することが多いです。
そのため、計画を作成する際は3つ目のMid案に希望する値上げ額を合わせるようにしましょう。
5.交渉先企業にとっての価値の明確化
先ほども述べましたが、単価交渉によって値上げを認めるということは、発注者や買い手にとっては利益の削減に繋がります。
そのため、利益が十分に出ている企業であれば単価交渉も比較的スムーズに通りやすいですが、そうでない企業の場合、『で、その値上げを受け入れてうちにどんなメリットがあるの?』という話になりやすいです。
そうなった場合、改めて交渉する「自社の価値」を問われることになります。
過去の実績などを元に、『我々が交渉先企業にとってどのような存在で、どのような価値を提供しているのか?』『交渉先企業にとっての必要性とは何か?』を整理し、合わせて提供してあげましょう。話をする担当者が、上に話を持っていきやすくなります。
6.今後の展望と、交渉先企業にとっての新たなメリットの提示
ここまで無くても良いですが、あればより建設的な未来の話に繋がります。
値上によって自社の利益を確保できますが、その確保した利益をどのように使っていくか?それは業界や交渉先企業にとって、どのようなメリットがあるか?という話です。
業界の発展に向けて、従業員確保に向けた啓蒙活動や、従業員の待遇改善&キャリアプランの検討、U・Iターンを検討する人向けの情報発信。または技術開発に向けた教育制度の開発など、自社だけでなく利害関係者の利益にも繋がるストーリーや、業界のイメージアップに繋がるようなストーリーを描けるのであれば、『前向きな価格転嫁』として伝える価値があります。
単価交渉時の注意点、差別化できる”強み”を見つける
上で二度も書きましたが、単価交渉によって値上げを認めるということは、発注者や買い手にとっては利益の削減に繋がります。
交渉先企業にとって値上げの効果が明確でなければ、単価交渉を行っても『じゃあ他に頼むことにする(=失注)』なんてことになりかねません。
そのため、交渉に臨む際は入念な準備が必要です。上記「5.交渉先企業にとっての価値の明確化」もとても大切な交渉要素になってきますので、交渉先企業にとって『値上げをして、どうなるか?』を明確にした上で、話し合いに臨んで下さい。
さらには、単価交渉は1度で終わりではありません。現在の中東情勢を勘案するに、エネルギー価格と物価の高騰から2度3度の交渉が必要になる企業は多数あることでしょう。
その中で、最初は快く受け入れてくれた企業も、回数を重ねるごとに厳しくなってくることも十分に想定されます。建設業などのように多重下請け構造となっている業界であれば、自社の替わりは比較的簡単に見つかり、より単価の安い方に流れることもあり得るでしょう。
そんな時、しっかりと交渉先企業からの案件を獲得していくためには、同業他社に代替されにくい自社だけの強みを見つけ、高めていくことが大切になります。
おわりに
以上、単価交渉時のコツと注意点、それから建設業における成功事例を紹介しました。
単価交渉を検討されている方は、参考にしてみて下さい。
書いてて思いましたが、なんだかとっても日本人らしい話ですね。
昔、個人輸入と販売をしていたことがありますが、海外での単価交渉はもっとドライな感じでした。
比較的人情的なアジア圏であっても、事実と要望だけを伝えて、イエスかノーか決まるような。相手への配慮といった感情的要素が介在しない取引が多かったように思います。
しかし、この日本人らしい配慮があるからこそ、これからも日本は他国と差別化していけるのだろうとも感じています。
理想論かも知れませんが、三方良しの日本経済を本気で作っていきたいですね。
まずは能登から。
