2024年のGWも終わりましたね。気づけばあっという間で、私は新たに引き継いだ田んぼ2枚の準備と種まき、夏野菜の準備、妻のイベント付き添い等などで終わってしまいました。毎年のことながら、この時期は忙しい。
羽咋を始めとする能登地方は、やはり震災の影響か来訪者が少ないものの、それでも好天に助けられて、宿泊・飲食・観光分野も賑わったようです。
一方で、行楽シーズンで稼ぎ時だったわりにイマイチ伸びきれなかった店舗もあったようで、飲食・観光関係の方々から『Googleマップの評価を高めるにはどうしたら良いですか?』という相談もあり。
今回は、Googleマップ上に限らず、店舗の評価を高めるために必要となる「引き算」マーケティングの考え方を紹介します。
このような事業者様へお届けします
本記事は、以下のような事業者様向けに書いております。
・オリジナリティを出して差別化しているつもりだが、上手く差別化に繋がっていない気がする
・開業から時間の経過とともに評価が下がってきている
・お客様の満足度やGoogleマップの評価がイマイチ高くならないと感じている
・売上を伸ばすための方向性が分からない
よく勘違いされる「特徴の掛け算」が「集客&高評価に繋がる」という誤解
中小事業者の支援をするようになってから感じるのですが、創業支援や事業改善の支援を受ける際、『競合他店と差別化して集客力を高めるために”お店の特徴”の要素を複数組み合わせましょう』という風に教わっている方が多いのでしょうか?
強みや特徴の「掛け算による差別化」は重要なことではあるのですが、それが全てではありませんし、要素を沢山増やして差別化したから「必ず集客&高評価に繋がる」というわけでもありません。ここら辺について仮の事例を元に解説していきます。
具体的な例として、地元産の小麦粉を使用した「うどん屋さん」を考えてみましょう。
(※注:実例を元に今回の記事用に考えた例であり、実際の店舗・事業者とは関係ありません)
その事業者は、店舗の特徴として「うどん専門店」×「地元産小麦粉100%使用」×「手打ちによるコシのある麺」による差別化を行っています。『こだわりのうどん屋さん』として知られ、高級感ある落ち着いた店内装飾もあり、行楽シーズンには多くの観光客で賑わうほか、地域の方々の来店頻度もそれなりに高く、レビュー評価も4.1~4.2と高評価。
従業員の方々も、地域の方々を中心に雇ってはいるものの、『良い商品を提供できている』『お客様に満足いただけている』という自信もあり、職場環境に不満はありません。
この店舗は、今でこそ上記のような評価ですが、かつては差別化を強く意識しすぎており、今ほど評価も高くないお店でした。
【前提として】掛け算は「差別化」するためには良いことです。
最初にお伝えしますが、要素の掛け算による差別化は良いことです。
複数の要素を組み合わせによって店舗を特徴づけることで、お客様に対して『何が特徴のお店なのか?』が分かりやすくなり、オリジナリティ溢れる店舗が作れます。近場に同じような特徴の事業が無ければ、『こだわり』を持つお客様を集客する力は高くなるでしょう。
しかし、ここが重要なのですが、
「掛け算」による差別化のメリット(目的)は、あくまで『ターゲットを絞ることによる”競争回避”や、設備への投資・味や方向性などの強みを”集中しやすくなること”』であり、実は「店舗の評価の高低には《直接的な》関係はない」のです。
差別化によって、お客様の評価は高まらない
最終的な店舗の評価を高める要素は
1)価格や期待に対して商品・サービスの実際の質が高いこと
2)店主の想い=店舗のコンセプト=提供される商品・サービスに一貫性があること
の2点です。
評価とは「期待値」と「実際に提供された品質」のギャップ
あなたは『差別化』と聞くと、どのようなイメージを持ちますか?
多くの方は「専門化」「特定の需要・ニーズに特化対応する」など、狭い市場に対して尖った商品&サービスを提供するイメージを持つのではないかと思います。
では、『尖った商品やサービスを提供するお店』について、どのようなイメージを持つでしょうか?
「価格は高いが、”高品質”」というイメージが浮かびませんか?
そうなんです。差別化によって「競争回避」や「資源の集中が可能」などのメリットは生まれるのですが、ともすると来店前から“商品やサービスの質は高いんだよね”という『勝手な期待値』が付けられてしまうのです。
世間一般には『ハードルを上げる』なんて言うんでしょうか。(もう死語ですかね?)
そして、「提供品質>期待値」であれば高評価となりますし、「提供品質=期待値」であれば普通~良い評価に、「提供品質<期待値」であれば”残念でした”と低評価になってしまいます。
差別化は不要な競争を避け、限られた資源を有効活用するために重要な手段ではあるのですが、やり方を間違えるとマイナスの効果にも繋がってしまうというわけです。
では、どのようにしたら良いのか?
純粋に期待値を上回る品質を確保できれば良いのですが、ここで、特定の期待値だけを高めさせるための2つ目の要素「一貫性」の話になります。
あえて「引き算」する勇気
私は、最初の「このような事業者様へお届けします」に挙げたような事業者様の支援において、よく『”あなたの想い”と”言ってること・やってること”を一致させましょう』と伝えています。
その理由は、『売上を上げるには差別化が大事と言われたから』と、自社ならではの強みを全て挙げ、それらを全て掛け合わせるようなマーケティングを取っていることが多く、結果として「何がしたいのか?」が分からなくなっていることが多々あるためです。
具体的には、
《あなたのお店を一言で表すとしたら?》
という質問に端的に(10秒~20秒程度で)答えられなければ、一度、差別化要素の整理・整頓を勧めます。
例えば、先の「うどん屋さん」の例で表現すると、今は
・うどん特化の専門店
・地元産小麦100%使用
・手打ちによるコシのある麺
という3つの特徴に絞って差別化・投資・経営努力をしており、評価を受けています。
しかし、かつては上記の3つの特徴だけでなく、以下の特徴を差別化要素として取り入れていました。
取り入れた理由は「好きなことで差別化した方が良いと勧められたから」「お客様と様々な共通点を設けることで集客に繋げたいから」とのこと。
・野球のジャイアンツが大好きで、ファンの方は感謝デー有り
・店主はライダーでツーリングライダーを応援、県外の方はサービス
・美大の娘さん繋がりで店内には美術作品の展示が多数
このお店の店内を、想像してみて下さい。
店内の壁は白が基調のワンルームマンションで使われるようなクロス。
A3サイズの地元小麦のPR資料が張られ、その隣にはジャイアンツの選手のポスターも。
部屋の天井近くや角付近には美大関係の芸術作品が飾られ、カウンター近くにはバイクのフィギュアや旅先で撮影した写真のスタンドが立てられている。
いずれも大好きで、お客様と想いを共有したいくらいに「大切な要素」だというのは分かります。
確かに、差別化にはなるでしょう。他に同じようなお店はありません。唯一無二です。遠方からの集客も増えるかも知れません。
しかし、それと同じくらい『うどん専門店』としての良さも分かりにくくなっていました。
提供される『こだわりの手打ちうどん』は美味しいのでしょうが、その素材の良さ・手打ち麺の食感をじっくり味わってもらうには、不要な要素が多すぎます。お店で働く従業員としても、PR要素がバラバラで統一感が無く、何をお勧めして、何を誇りに働けば良いのか分からない状況。
結局、当時はどの特徴も徹底した強みとして伸ばせず、『美味しいのだけれど、うどんもサービスも今一つ‥』という評価。地元の人はあまり行かず、SNSでも大きな話題になりにくく、行楽シーズン以外では閑散としていることも多くありました。
評価を高めるために必要なのは、単純な足し算や掛け算だけではなく、その後に「引き算」をする勇気になります。
重要なのは「優先順位の明確化」と「優先順位に基づいた投資&努力」
改めて、もう一度聞きます。
《あなたのお店を一言で表すとしたら?》
この質問に対して、様々な要素が浮かび上がってくると思います。
その中で、あなたが一番「大切にしたい」「重要視したい」ことから、順番に並べてみて下さい。
情緒的価値が重要
この時、事業としての「稼げそうか/稼げなさそうか」「人気が出るか/出ないか」という《戦略的な視点》も必要ですが、人生における「やりたい」「大切にしたい」という本心に近い《情緒的価値による視点》も必要です。
その理由は、事業は結局「人」と「人」の取引であり、「社長(事業者)の想い」と「言ってること」「やってること」の一貫性がなければ、お客様にも従業員にもその違和感が伝わり、本当にいい関係を築くことが出来ないからです。
これは、個人事業も法人化した組織も同じですね。
上手にまとめられた美辞麗句より、拙くとも本心からポツポツ絞り出した想いの欠片の方が、人の心を動かすものです。あなたの近くにおり、あなたをよく知っている人であれば、なおさら。
だから、人生において大切にしたい要素も挙げていきましょう。それらが上から順番に、本当の意味での差別化要素になっていきます。
これこそが、お店のコンセプトになるわけです。
上から優先的に投資&努力する
大切にしたい要素の順番が洗い出せたら、それらの上から3,4つくらいまでを優先的に集中して投資し、店舗の主軸として集中して強化(専用設備の導入、製造技術の向上や味へのこだわり、店内外の装飾、企画・商品開発、情報発信など)、商品やサービスの品質を高めましょう。
そして、4つ目、5つ目以降の要素は思い切って事業から取り除きます。
(取り除いた要素は「別事業」や「関連事業」として始めることになるか、または事業の状況を見つつ関係者と相談しつつ、後から1要素ずつ足していく形にするかは現段階では分かりませんが、機が来るまで心の中で温めておきましょう)
これにより、『あなた(事業者)の想い』と『言っていること・やっていること』に一貫性が生まれ、ここまでして、ようやく『お客様の期待値』と『店舗にて提供される商品・サービス』が一致し、初めて差別化による評価の向上に繋がり始めます。
うどん屋さんの例で言えば、
・専門店としての製造技術の向上
・店主の好きな地元小麦を感じられるメニューの開発と厳選
・愛する地元ならではの食材の調達ルートの確保
・短時間提供が可能となる専用設備の導入
・ゆったりして落ち着けて、高級感を感じられる店内外装飾の導入
・読んで&食べて納得いただける”こだわり”説明資料の作成
・満足いただけるサービスに繋げる従業員教育
・上記の特徴に絞った顧客視点での情報発信
などに集中して力を入れ、それ以外の要素は思い切って取り除きました。(ほんの一部だけ、レジカウンター付近に残ってはいますが)
その結果、高級感はあるものの入りやすい店舗となり、地元のお客様・友人連れのお客様の来店が増加。また、SNSやブログで取り上げられる機会も増加したことで、遠方からのお客様・リピーターの方も増えた上に、提供時間の時短で回転率が高まり、「評価」と共に「収益性」も大幅に向上しました。
経営者(事業者)の仕事は「要素の取捨選択」を決めること
もちろん、上記の事例は参考です。ここまで綺麗に結果の出た理由としては「立地」や「地域のニーズ」「価格設定」「確保できた投資額」「従業員の質」「事業者の想いの強さ」等、店舗の改善以外の要因も絡んでいることでしょう。
しかし、実例を参考としているため、『差別化要素の絞り込み』や『投資と努力の集中』という改善に繋がった部分については再現性があり、どの店舗においても活用できます。
重要なのは、思い切って捨てる要素を決めること。
新しい要素を拾いあげることは現場からでも出来ますが、『捨てる』という決断が出来るのは、経営者(事業者)だけですから。
【まとめ】差別化は大事だけれども
差別化だけでは評価の高低には繋がりません。
評価を高めるためには、何が強み(コンセプト)の店舗なのか?それを推す理由(事業者の想い)は何なのか?を明確にし、それに沿った投資と努力、商品やサービス開発を行うことが必要となります。
そして「事業者の想い」と「言っていること・やっていること」が一致することが、店舗のコンセプトに一貫性が生まれ、従業員・お客様の双方に納得感・満足感のある店舗サービスに繋がり、お客様からの高評価に繋がっていくのです。
以上、『店舗の差別化が上手くいかない、評価が上がらない』という事業者様は、一度ご検討下さい。
また、客観的な視点によるマーケティングやプロモーション、市場調査を通しての商品開発、事業を成長させる組織の構築や採用・教育方針の策定、それらを実現するための財務的な助言など、『経営に関する網羅的な支援が必要だ』と感じる方は、一度お近くの《中小企業診断士》にご相談下さい。(私でなくとも構いません)
きっと、今必要な道を指し示し、あなたのお力になれるかと思います。